「ヌマエビの混乱」をまとめてみました。
解かってしまえば「な〜んだ」という程度の単純な話です。
しかし、頭を混乱させる膨大な量の過去情報と、
それを収束する力を持つはずの新情報に新たな混乱源があって、
なかなかその単純さを理解するに至らないのが現状と思います。
事実は単純なのですが、錯綜する情報が身の周りに多過ぎる訳です。
【ヌマエビ科】
●ヌマエビ属←このヌマエビ属だけの話です。
ヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)
ヌマエビ北部-中部群(旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型)
●ヒメヌマエビ属
ヒメヌマエビ(コテラヒメヌマエビという亜種?も存在するとかしないとか)
ミゾレヌマエビ
トゲナシヌマエビ
ヤマトヌマエビ
●カワリヌマエビ属
ミナミヌマエビ
シナヌマエビ類(シナヌマエビ、コウライヌマエビ、ノコギリヌマエビなどの外来亜種)
全ヌマエビの名前の最後が“○○ヌマエビ”なので、
勘違いされる事があるようですが、ヌマエビ属だけの混乱の話です。
ヒメヌマエビ属やカワリヌマエビ属のメンバーには関係のない話です。
◆単純な2種類です
結論からすると、単純に2種類居るだけなのです。
日本の本土に生息するヌマエビ属は2種類。ただそれだけです。
●1種類目


・透明度の高い体。
・赤茶色の模様で、体側に「ミ」のような斜線が入る。
・黄色い線や、白や黄色の班点が目立つ。
・小卵型。孵化した浮遊幼生は、海に降って稚エビとなって遡上。繁殖に海水が必要。
・黒潮の当たる沿岸の河川に分布。(最近はなぜか北海道に進出?移入?)
・ゾエアが海で混ざる為、個体ごとのDNAの違いが低い。(琉球産がやや違う程度)
・数十年来“ミゾレヌマエビ”として観賞魚店で売られている。
(一般にもミゾレヌマエビとして認識されている事のほうが多い。というよりも100%に近い)
●2種類目


・スジエビ級に横へ飛び出した目が特徴。
・多くは薄い飴色。全体的に、上記の種類より地味。
・ヌカをまぶしたような細かい班点が多く、透明度はやや低め。
・胸の横に『富嶽三十六景・神奈川沖浪裏』のような独特の斑紋がある⇒こちら
・中卵型。孵った浮遊幼生は淡水中で稚エビとなって着底。海水不要。陸封種。
・陸封種なので、隔絶された各地域ごとで若干DNAが違っているようです。
見た目にも全然違う印象を持ちますし、
降海型と陸封型ですから、生活史も違います。
余計な情報を読まなければ、これで終了です。
2種類のエビ自体には大きな混乱要素はありません。
ヌマエビ属の混乱は、研究したり、販売したりする人間側の混乱であって、
エビ本人達は、太古から、この2種類で生きて来ています。
◆ヌマエビの混乱とは?
ヌマエビの混乱は、簡単に書くと以下のような感じと思われます。

額角上の棘(ギザギザ)が額角の先端から眼の上を通り過ぎ、頭の後ろにまで並ぶ個体をヌマエビとした。
小卵型で、繁殖には海水が必要な降海型。

そして、眼の前までにしか棘が生えていない、頭がつるつるハゲ頭の個体をヌカエビとした。
中卵型(ほぼ直接発生の大卵型も居る様です)で、繁殖には海水が要らない淡水繁殖、陸封種。

ところが、ヌカエビの中に、眼より後方に棘があるものが発見された。
ここが要。
種類のあらましからすれば、「ヌカエビにも頭に棘のあるものが存在するのだな」で終了な筈ですが、
なんと、「眼の後ろにも棘があるのだからヌマエビだ!しかも大卵型だ!」となってしまったようです。
これが大混乱の根源ではないかと思います。
ヌマエビ属の混乱の原因は、「額角偏重」としか云い様がないココにあるようです。
額角でしかエビを見ない。額角こそがエビであるかのような分類方法です。
「ヌマエビ大卵型はヌマエビではなくヌカエビである」という記述も見掛けた事がありますから、
必ずしもエビの研究者全員がそんな短絡で判断しているわけではないようです。
しかし、エビを総合的に判断しない一派が大きな勢力を持っているようで、
ヌマエビ・ヌカエビ情報のどこを見渡しても、
『ヌマエビには小卵型と大卵型が存在する』
『ヌマエビとヌカエビは亜種である』
『額角上の棘が眼より前方まで=ヌカエビ。額角上の棘が眼の後方まで及ぶ=ヌマエビ』
『ヌマエビとヌカエビの見分けは困難』←同種を含んでいますから困難なのは当然です
といった文章だらけになっている訳です。
個人的には、棘一本程度で全てを覆すような思いきりのよさに、むしろ驚いてしまいます。
とてもじゃありませんが、不安過ぎて頼れないレベルだと思います。
しかし、淡水エビの世界では、一本の棘に、とてつもない『権力』が存在したようです。
その「額角偏重」に終止符を打ったのがこちらの研究。
http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/16879/1/A2H060505.pdf
棘の有無ではなく、DNAの距離から判別し直した研究です。
これによって、ヌマエビ大卵型はヌカエビ側の所属であることが確定しました。
ヌマエビとヌカエビが別種である事も確定です。
ヌマエビとヌカエビについての情報は、この論文以外を読む必要はないのではないかと思います。
巷のエビ情報は、この研究以前の混乱情報を起源とした情報で埋まっているので、
それらを読んでも、頭が混乱し、間違いを憶えるだけと思います。
古い誤情報か、新しい真実の情報かを見分けるのは簡単です。
「ヌマエビとヌカエビは亜種である」などと書かれていたら古い情報です。
この論文からは多くの真実を学びました。
●ヌマエビ大卵型はヌカエビだった。(=ヌマエビに大卵型は存在しなかった)
●ヌカエビにも、頭の後ろに棘が生えている個体が存在する。
●ヌマエビとヌカエビは亜種ではなく別種である。
●ヌカエビは関東東北特有のエビではなく、琵琶湖周辺や、山陰地方にも広く分布している。
ただ、この論文からは新たな問題として、
せっかく別種とした2種を同じ「ヌマエビ」と呼び、
“南部群”“北部-中部群”といった、
生息地域差としか感じられない状態に落としてしまっている部分が生じました。
亜種ではないどころか別種である事が解かったのに同じ名前で呼ぶという不思議な状態です。
その後、実際に“ヌマエビ(ヌカエビ)”といった非常に違和感の大きい記述が増えました。
さらにその後、このカッコは外され、ただの“ヌマエビ”と呼ばれ、休耕田で養殖が行われているようです。
別種となった旧ヌマエビ小卵型と、旧ヌカエビ(旧ヌマエビ大卵型を含む)。
淡水で繁殖できるのはヌカエビ側のほうですが、それが“ヌマエビ”と呼ばれる変な状態。
・ヌマエビ南部群
・ヌマエビ北部−中部群
どちらも“ヌマエビ”が頭に付く暫定名称(?)ですから間違いではないですが、
だいじなそれ以降の部分を外してしまうと、随分とおかしな事になってしまいます。
早めに個々の種に別々の名前を与え直すなどの処置が必要に思えます。
参照⇒新しい混同の問題についてはこちらで⇒【ヌカエビはヌカエビ】
◆簡単に云うと、
ヌマエビ(小卵型)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
観賞魚的には古くから“ミゾレヌマエビ”で御馴染み。額角に頭の上にまで棘がある。

ヌマエビ(大卵型)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
額角に頭の上にまで棘があるのでヌマエビ側だ。だけど淡水で繁殖するのでヌマエビ大卵型。

※この型が存在した事から、「ヌカエビとは亜種関係」という判断が生まれたと思います。
(使っている写真は旧来のヌカエビ)
ヌカエビ・・・・・・・・・・・・・・・
淡水で繁殖する。頭に棘が無い。

“ヌマエビには小卵型と大卵型があり、ヌカエビとは亜種関係”とされていた。
↓
ところが、遺伝子を比べたら、

ヌマエビ小卵型は、ヌマエビ大卵型とは同種の産卵形態の違いどころか、全くの別種だった。
ヌカエビとも亜種どころか別種レベルの違いだった。
「ヌマエビ南部群」と呼ぶことにしよう。

ヌマエビ大卵型とヌカエビは、亜種関係どころか同種の領域だった。
頭の棘があるものとないものは地域個体群の差や個体差程度だった。
「ヌマエビ北部−中部群」と呼ぶことにしよう。
↓
ヌマエビ南部群

ヌマエビ北部−中部群


別種なのに、同じ種類の地域差?にしか思えない呼び方(T.T)
“休耕田でヌマエビ(ヌカエビ)を養殖”なんていう面白い表記が生まれている(^^)。
産卵形態の違い、模様の傾向の違い、色彩の違いなどよりも、
頭の後ろまで棘が有るか無いかだけで、別種を同種や亜種として振り分けていたという、
ちょっと不思議な世界。
そして今度は、別種である事が判明した2種を同じ名前で呼ぶという、
またまた不思議な現象が新たに生まれたようです。
◆大量の負の遺産
ヌマエビ・ヌカエビに関しては、1994年に遺伝子の距離から見た分類の総見直しが行わました。
しかし、つい最近のことですから、ヌマエビ・ヌカエビの情報の中には、
変更されていくのに相当な時間を要すると思われる記述がたくさん存在します。
額角の特徴からのみの分類が広く浸透してしまい、厚みと高さを持った「学びの障壁」として残っています。
Web上でも、放置されてしまっているエビサイトが複数ありますから、
これらの古い情報とは、今後も付き合って行かなければなりません。
放置とは云え、情報を発信し続ける役割に変わりはありません。
新しい情報と対等、あるいは歴史を持っている分、より高い影響力を持ち続けます。
特に、一から学ぶ初心者の方には、この影響は大きいと思います。
古い情報に当たる確率のほうが圧倒的に多いのは間違いありません。
古い情報で勉強すればするほど泥沼です。
上記の論文が今のところ最も有効です。
(新たに発生した混乱源が無くなるとより良い訳ですが)
新刊書や雑誌等でも、未だ、あたらしい分類で記述される事がないようです。
(それどころか、ヌカエビは小卵型として紹介されている水準。ヌマエビは“ミゾレヌマエビ”ですし・・・)
図書館は古い情報でしょうし、本屋さんで勉強しても最新分類には出会えないというのが現状のようです。
本や雑誌をめくっても溜め息しか出ないので、
現在の段階では、上記の論文を参考にするのが唯一の賢明な策です。
◆ヌカエビも大混乱
当然ですが、もと亜種相手とされたヌカエビも混乱状態に置かれて居ます。
ヌカエビの詳細は⇒ヌカエビで。
◆なぜか“ミゾレヌマエビ”で売られている“ヌマエビ(南部群)”
ヌマエビを語るには避けて通れない「ミゾレヌマエビ問題」⇒【2種類あるミゾレヌマエビ】
一般の方の日本産ヌマエビ類全体の認識を混乱に導いている元凶でもあります。
そもそも、ヌマエビが“ミゾレヌマエビ”という名で販売されている、
あるいは、アクア関連の雑誌や図鑑で学名付きで紹介されてしまっているという現状が、
ヌマエビの混同をより解かり難くしていると思います。
これをちゃんと処理しておけば、話はより簡単になります。
(外肢の生えているヌマエビ属2種)−(アクア的ミゾレヌマエビ)=(旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型)
アクア・ミゾレの容姿のエビ以外の「ヌマエビ」は、全部、中卵型〜大卵型(ヌカエビ型)のエビとなります。
数十年来“ミゾレヌマエビ”として親しまれて来た容姿のエビ=ヌマエビ小卵型=ヌマエビ南部群ですから、
その“販売名ミゾレヌマエビ”とは思えない容姿だったら、ヌカエビ型のヌマエビ北部−中部群なだけ。
◆ヌマエビとヌカエビの見分けは困難?
ヌマエビとヌカエビは見た目での識別は困難で、額角を顕微鏡で見るしかないとされていましたが、
旧ヌマエビ大卵型がヌカエビである事が確定している現在では、このような記述も無意味です。
旧ヌマエビ大卵型、つまり、頭にも棘があるヌカエビを、同種のヌカエビと別種にしようと、
いくら見比べた所で、同種にしか見えないのは当然です。
赤茶色で黄色い班点がたくさん入った“商品名ミゾレヌマエビ”がヌマエビですが、
この綺麗なエビと、地味エビの代表のようなヌカエビを混同している例を見たことがありません。
つまり、額角など見ない一般エビ飼育愛好家にとっては、最初からヌマエビとヌカエビでしかないのです。
模様に価値がなく、白く色の抜けた標本の額角や棘しか見ないと「見分けは困難」なのでしょう。
模様や生活史の方に目が行くアクアリストにとっては関係のない話です。
アクアリストの目のほうが現実に近かったわけで、
今まで通り、普通に見分けていれば大丈夫です。
とても亜種とは思いようのない容姿ですし、とうぜん見分けは簡単です。
参照⇒【誰もが簡単に見分けていたヌマエビとヌカエビ】
◆ヌマエビ属の分布
分布についても、「北海道を除く日本全国」とされるのは2種類の分布を足したもの。
関東・東海・東北とされていたヌカエビの生息分布も、“本州中部以北”を遥かに超えて広がります。
ヌマエビ小卵型は、黒潮の流れが当たる沿岸の河口から稚エビが遡上しますから、
黒潮の影響を受ける本州中部以南となります。
“ヌマエビ”を冠しながらも沼というイメージの場所にはまず棲まないのがヌマエビです。
海から隔絶された沼に生息していたら、それはまず陸封種・ヌカエビのほうで、
生態からすれば、このヌカエビを中心とするヌマエビ北部−中部群(陸封・淡水繁殖)が“沼エビ”となり、
ヌマエビ南部群(両側回遊種・汽水繁殖)は“川エビ”とでもすべき生活史です。

2種類のおおよその分布イメージ。
ヌマエビ北部−中部群⇒ヌカエビの容姿のエビ。旧ヌカエビと旧ヌマエビ大卵型。淡水繁殖種。
ヌマエビ南部群⇒“商品名ミゾレヌマエビ”として知られる容姿のエビ。旧ヌマエビ小卵型。降海型。
(エビ界での“本州中部”という呼び方は、非常に太い幅を持った地域を指すようです⇒参照)
※生息が重なる部分でも、両種の見分けは容易なので、混同することは無いと思います。
※最近、外来種として、ヌマエビ南部群が北海道の一部に定着しているようです。
今まで“ヌマエビ”とされていたエビのかなりの割合が“ヌカエビ”であることになります。
簡単に云うと、商品名“ミゾレヌマエビ”だった綺麗なエビ以外の、
離れ眼で地味なタイプが全部ヌカエビ側になります。
各地の細かい分布には、相当な変更が必要になると思います。
“ヌマエビ”の一言で処理されている場合は、ヌカエビ側である可能性が多いにあります。
ヌカエビが生息していなかった場所、生息記録のない場所にも、
頭に棘の有るヌカエビが存在していることになります。
※レッドデータブックや生息調査に載っている「ヌマエビParatya
compressa compressa」が、
ため池で捕獲されたという場合は、
それは頭に棘のあるヌカエビ=旧ヌマエビ大卵型である可能性が極めて高いと思います。
一般の方が見れば地味なヌカエビだと思いますが、
模様や色彩を参考にしない専門家が額角を見ると途端にヌマエビ側になってしまう。
記載はヌマエビですが、おそらくどう見てもヌカエビだと思います。
Paratya compressa compressaではなく、Paratya
compressaで終わっていても、
採集地がため池だったら、まず淡水繁殖の筈ですからヌカエビ側。
山陰から東海にかけての地域において、分類の見直しが必要に思います。

琵琶湖を中心とした山陰、北陸、そして愛知を結んだこの辺りでは、
正式には死語である、ただの「ヌマエビ」の中に、
頭に棘のあるヌカエビ=頭に棘があるので「ヌマエビ大卵型」とされたエビと、
“ミゾレヌマエビ”で御馴染みのヌマエビ小卵型の別種2種が区別されずに含まれて居ることになると思います。
ため池出身で地味ならまずヌカエビ側だと思います。(旧ヌマエビ大卵型)
旧ヌマエビ小卵型はゾエアが海に降らないと成長できませんのでため池で繁殖できません。
河川にはどちらも存在すると思います。
◆呼び方の問題
呼び方ですが、個人的にはこれを機に変更してしまったほうが良いのではないかと思います。
全くの別種を、いつまでも「ヌマエビ南部群」と「ヌマエビ北部−中部群」という
同じ“ヌマエビ”を使って呼ぶというのも問題があると思います。(最新でどう呼ばれているのかは知りませんが)
前述の通り、これでは「ヌマエビという1種の、生息地による違い程度」と誤解される危険があるからです。
よく見掛けるようになった“ヌマエビ(ヌカエビ)”というのは最悪の呼び方だと思います。
※その他にも、ヌマエビ属ではなくヌマエビ科全体が見直されたかのように誤解されている例も多い。
●ヌマエビに関しては、
“ヌマエビ”という呼称のままでは、他のヌマエビ科の総称と重なってややこしいです。
色々な混乱の元凶と成り続ける事が大きく予想されますから、
これを機に「マヌマエビ」あるいは「ホンヌマエビ」とでも呼ぶ時期が来ている気がします。
マガモ、マダイ、マブナなどと同様に、種類としての呼称に格上げするしかないと思います。
●ヌカエビに関しては、
いっそのこと、「デメヌマエビ」にしてしまう(笑)。これが最も他種との混乱には効き目があります。
特徴に乏しいですから、唯一の特徴である『離れ眼』、『出っ張り眼』を冠してしまう。
元々、どこの掲示板やブログに紹介されても「スジエビ」で終着してしまう特徴ですから、
デメヌマエビにしてしまえば、
「なるほど、ヌマエビ科の中にもスジエビの様に眼が出っ張っている種類があるのだな」
という印象を強く持ってもらえるわけです。

ヌカエビのままだと、ヌマエビの亜種といった軽い雰囲気、あるいは日陰の立場。
無意識に「どうせ姿形も大差ないのだろう」という感覚に置かれ続ける訳です。
ですから、本当のヌカエビを目の当たりにしてもヌカエビとは思えない例が多いのです。
「こんなに眼が飛び出している訳ない。これはスジエビだ」となるわけです。
種名として、『出眼』という特徴を前面に出されたら意識せざるを得ません。
※そもそも、一般の方の多くが必ずスジエビと見紛うほどの『出眼』という特徴を持つ種類が、
亜種や同種などと云われて混乱されていたという事実のほうに不思議さを感じます。
いかに額角や棘しか見ていなかったか、という事が、ここからも良く解かります。
真横だけから見て、棘が有るか無いかのみの確認であることは間違いなさそうです。
いくら眼が出っ張っていても、真横から見てしまったら、出っ張っているようには見えません。
感覚としては、以下のように整理すると、種としての違いが鮮明になり、
誤解も生まず、スッキリすると思います。(以下、名前遊び)
■マヌマエビ(ヌマエビ南部群。旧ヌマエビ小卵型)

生息分布:本州中部以南
繁殖形態:小卵型(繁殖には汽水が必要)
特徴:
・赤茶色の模様に、黄点・白点を多く持ち綺麗な為、
観賞魚的には古くから“ミゾレヌマエビ”と呼ばれて流通していた。
・腹節(腰のような部分)が大きく盛り上がる為“キャメルシュリンプ”とも呼ばれた。
・胸の横に後頭部から「ミ」の様に斜め下に流れる線がある。
・外肢を持つ為、本当のミゾレヌマエビとの見分けは容易⇒【外肢を見る効用】
・それ以前に模様で簡単に見分けられる⇒【ヌマエビとミゾレヌマエビの模様の比較】
■デメヌマエビ(ヌマエビ北部−中部群。旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型)

生息分布:本州中部以北、東海、山陰、琵琶湖周辺などなど。
繁殖形態:中卵型(ゾエアで孵化するが淡水中で稚エビとなる)
特徴:
・最大の特徴は眼の離れ具合。際立って出目なのでスジエビと混同される事が多い⇒【ヌカエビの離れ眼】
腰の曲がりも強い為、スジエビの別名程度に思われている例も相当に多い。
スジエビはテナガエビ科なので見分けは容易⇒【スジエビの見分け方】
・模様の特徴には乏しく、多くは薄い飴色に細かい班点が振ってある程度。
・ただ大型の個体には横胸に独特の模様が濃く出るので見分けに有効⇒【ヌカエビの模様】

大型の雌個体の模様↑。胸の横の模様に注目すると、見分けがかなり簡単になる。⇒【ヌカエビの模様の特徴】
・近年勢力を伸ばしているシナヌマエビとの混同は外肢の確認で簡単に防げる⇒【外肢を見る効用】
※スジエビにも外肢は生えていないので、ヌカエビとの見分けには大いに有効。
外肢はどんなエビに対しても常に有無を確かめたほうが簡単、便利、確実。
イメージとして頭の中に描くには、↑こんな感じで良いのではないかと思います。

デメヌマエビの特技、『眼だけ水平の術』
(名前遊び終了)
要するに、商品名“ミゾレヌマエビ”で御馴染みのやや綺麗な容姿のエビと、
“ヌカエビ”で御馴染みの離れ目で地味な容姿のエビの2つに明確に分けられたということです。
(2種の中に、各々亜種レベルの個体群が存在するかも?といった雰囲気ですが、
見た目にまで「亜種!」と判断できる程、遺伝子の違いが容姿に反映しているかは疑問)
単純にこの2種類が存在するだけです。
必ずどちらかに含まれます。
・ヌマエビ大卵型は存在しません。
・現在は“ただのヌマエビ”も存在しません。
どうしてもただの“ヌマエビ”にしたい場合は、
基亜種のヌマエビ南部群(=旧ヌマエビ小卵型)がそれに相当すると思います。
・ヌマエビ大卵型はヌカエビです。
◆ただの「ヌマエビ」は居ない
名前の前後に何も付かない「ヌマエビ」という文字列を良く見掛けると思いますが、
これは、古い情報を元に作成された情報だと判断できます。
現在、正式に何も付かない「ただのヌマエビ」は存在しない事になっています。
かならず、
●ヌマエビ南部群←(旧ヌマエビ小卵型)※“古くから“ミゾレヌマエビ”の名で販売されている
●ヌマエビ北部−中部群←(旧ヌカエビ、旧ヌマエビ大卵型)
のどちらかです。
「ヌマエビ」は、公的な生息分布などにもよく登場する文字列ですが、
この「ヌマエビ」というだけの表記には、
1.頭に棘のあるヌカエビである旧ヌマエビ大卵型⇒現在のヌマエビ北部−中部群 ※生活史全般にヌカエビに相当
2.旧ヌマエビ小卵型⇒現在のヌマエビ南部群 ※販売名“ミゾレヌマエビ”でおなじみのエビ
という、別種の2種が区別されずに含まれている情報ということになります。
「“ただのヌマエビ”が存在するのではないかなぁ」と思われているのは、
本物のミゾレヌマエビである事がほとんどです。
アクア関連の情報誌ではヌマエビ南部群と本当のミゾレヌマエビが完全に入れ替わっているので、
それらの影響を受ける多くのアクアリストが種名を間違えて暗記させられています。
これは外肢や眼上棘の有無で簡単に分かります⇒【エビの見分けは額角より外肢で楽勝!】
総称としての「ヌマエビ」
他に「ヌマエビ」という文字列の使い方として、ちゃんと分けて欲しいと思うのは、
“ヌマエビの仲間”、“ヌマエビ類”という意味で使う「ヌマエビ」です。
テナガエビの仲間に対して使われるヌマエビ科の総称として、単に「ヌマエビ」と書かれる場合が多いのですが、
一つの種類と総称がかぶるので、かならず“ヌマエビの仲間”、“ヌマエビ類”として欲しいものです。
(文の流れで、そういう表記になるのはよくあるとは思いますが。私的にも(^^;)
このあたりも、種の呼称に関しては“マヌマエビ”、“ホンヌマエビ”あたりで呼んで欲しいものです。
マガモ、マハゼ、マタナゴ、ホンモロコなど、総称とかぶる種名には“マ”や“ホン”をよく付けるものですが、
淡水エビにも付けたほうが良い時期と思います。
名前に何も付かない、ただの「ヌマエビ」が存在するのではないか、
といった雰囲気だけは、あまりにもひどい情報の錯綜ぶりから、なんとなく残っていますが、ただの“幻”です。
正式な呼び方には、
・正真証明のヌマエビ
・何も冠さないヌマエビ
・れっきとしたヌマエビ
・何も付かないヌマエビ
といったものは存在しません。
●“ミゾレヌマエビ”で御なじみのエビ⇒ヌマエビ南部群
●眼が出っ張っていて、スジエビとよく間違われるエビ⇒ヌマエビ北部−中部群
という極めて分かり易い2種が居るだけです。
他に、「名もないヌマエビ」があるかもしれない、ですが、
これは南国の島々でのお話だと思います。
本州近辺では研究し尽くされていると思います。
(この場合も、名もないヌマエビ“類”ですね)
◆「淡水エビは模様や色彩では見分けられない」の根拠だったのでは?
「淡水エビは額角でしか見分けられず、色彩や模様は参考にならない」という風潮は強いと思いますが、
この風潮の根拠となったのも、この『ヌマエビの混乱』ではないかと思います。
同種なのに額角の棘の違いで別の所属とされただけですから、
ヌマエビ大卵型とヌカエビは同じ模様で同じ色彩と思います。
実際、「これぞヌマエビ大卵型特有の色彩だ」というエビを見た事がありません。
いくら探しても恐らく見られないと思います。
あるのはヌマエビの写真(商品名“ミゾレヌマエビ”として有名な容姿)とヌカエビの写真のみ。
ヌカエビとヌマエビ大卵型は、
別亜種としたにもかかわらず、まったく同じ色彩と、まったく同じ模様ですから、
種分けをしたい場合には模様や色彩が参考にならないのは当然だと思います。
肉眼では完全に同種としか見えないエビを、小さな棘の有無で種分けしていたわけです。
ヌカエビとヌマエビ大卵型は、現在は同種である事が確かめられている訳ですから、
「色彩や模様は参考になる」に改めて良いと思います。
それどころか、同じ間違いを繰り返さないように、逆に重要性を増したほうが賢明に思えます。
模様や色彩は、総合的な判断の一翼を担う大きな特徴だと考えたほうが良さそうです。
◆混乱したのが不思議
ヌマエビ属の混乱。
解かってしまえば、たぶん簡単なのではないかと思います。
元々生活史も違いますし、見た目にもこれといって間違える余地のない2種類が居ただけです。
普通なら混乱しない水準の事象だと思います。(雄を横から見ると似ていますけれど)
恐いのは、DNAを比べなければ自力で混乱を修正できなかったという点。
淡水エビの分類に関しては、「総合的な判断」という部分が非常に欠落している印象が強いのです。
一本の棒の上に天守閣を建てている、そんな印象。
ちょっとした衝撃で簡単にぶれてしまう、脆い造りに思えます。
◆こんなエビが居たら、また考え直せますが・・・・・

こんな絵を書いてみました。
商品名“ミゾレヌマエビ”に大きな卵を抱かせてみました。
こんな容姿のエビで、大きな卵を抱えていたら“ヌマエビ大卵型”が存在すると信じられますが、
そんなエビの写真は一回も見たことがありません。
淡水の水槽で繁殖できる、このようなエビが存在していたら、
もうとっくに人気者でしょう。
(シナヌマエビ類をわざわざ輸入して“ミナミヌマエビ”と称して売る必要もないです)
世の中のヌマエビ属の情報には、
・ヌカエビとしか思えない写真(地味な中卵型)
・商品名“ミゾレヌマエビ”としか思えない写真(やや派手で小卵型)
の2種類しかありません。
こんな大卵を抱いた商品名“ミゾレヌマエビ”は、見たことがありません。
そんな状況から考えても、ヌマエビ大卵型はこの世に存在しません。
“見た目”や“観察”という視点が異常に弱い淡水エビ研究の世界ならではの幻。
参照⇒【蝦ギャラリー】
参照⇒【ヌマエビ(南部群)画像リンク集】
おすすめ参照リンク
◆額角の比較図
http://www.najomon.com/page_tsunan/tsunan_shizen/shizen_4/03.html
古い情報。
現在では、
・ヌマエビ大卵型とヌカエビで一種⇒ヌマエビ北部-中部群
・ヌマエビ小卵型で一種⇒ヌマエビ南部群
となっています。
ヌマエビ北部-中部群(ようするにヌカエビ)の中には、
頭の後ろまで棘のあるもの・ないものがいる事になります。
◆ヌカエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/nukaebi.html
古い情報。
ヌカエビは「ハゲ頭」。眼上棘が見えずともこれで容易。
ただ、現在ではヌマエビ大卵型もヌカエビと同種で、共に「ヌマエビ北部−中部群」
という暫定?の種名になっています。
頭の棘は個体差程度の違いである事も多いようで、種類の判別には使えません。
◆ヌマエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/numa.html
古い情報。
ここに書いてある分布には悩まされましたが、
“本州中部以南”はヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)の分布。
“北海道を除く”はヌマエビ属全体の分布(旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型+旧ヌマエビ小卵型)。
で良さそうです。
現在は北海道にも南部群が移入中とのこと。
◆北海道のヌマエビ南部群
http://www.geocities.jp/polo6nhs/AZ/EBI01.html
完全に定着しているもよう。
ここまで大きな写真でも、眼上棘の確認は困難。
ゾエアの写真の中に、尾扇化を果たした稚エビらしきものが見えます。
ヌマエビ北部-中部群も含まれているのかも。
(他の方からも、北海道にはヌカエビも居ますという情報を頂いたことがあります)
◆ヌマエビ属とヒメヌマエビ属の区別点
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi5.html
脱ぎたての脱皮殻があれば、
死なせずに専門的な同定が可能なようです。(顕微鏡があればですが)
外肢は生きたエビでも簡単に確認できます。
2009/02/16 岩
2009/06/09 更新
【日本産淡水エビの見分け方】へ戻る
【総合目次】へ戻る