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ヌカエビ(ヌマエビ北部-中部群)
渓流域に生息していた一群〜ゾエア後期



以前から何世代も繰り返し繁殖し続けているヌカエビの、ゾエア後期の写真です。
大きな岩がごろごろあり、ウグイやオイカワがビュンビュン泳ぐような場所のさらに上流。
大きな壁状の滝の上の、緩やかな砂底の流れに居た個体群です。
この個体群のゾエアは非常に小さく、完全に頭を下向きにして漂う浮遊幼生です。
これとは別の感潮域の上部で採集した個体群では、
産まれた途端に「稚エビ」と云ってもよいくらいの大きさで孵化するのに対して
こちらはほとんど小卵型幼生のイメージです。
しかし、淡水水槽のままでも、そこから死滅の方向を辿らず、
この写真のような状態になり、やがて着底して稚エビとなります。
このあたりが淡水繁殖種・中卵型のヌカエビの面白さです。
おそらく生息各地で、卵の大きさ・ゾエアの大きさは違うのではないかと思いますが、
ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群。旧ヌマエビ大卵型も含む)は全て淡水繁殖種なので、
ゾエアだからといって、汽水に入れてしまったり、「小卵型だから・・・」とあきらめてしまわない様に
注意が必要だと思います。(巷の“ヌカエビ情報”は、相当にあやしいと踏んだほうが無難です)


産まれた直後は、完全に頭を下にして浮遊する小卵型ゾエアと同様ですが、
淡水内でも脱皮を繰り返して大きくなり、やがて、横方向にも自由に泳げるようになります。
「ヌカエビは小卵型だ!」「ヌカエビの繁殖には海水が必要だ!」と書かれているのをよく目にしますが、
これは肩書きを持った約一名の「飼育感想」レベル(あるいはそれ以下の「想像」や「勘違い」レベル)の情報が、
アクアリストやアクア業界の人の、目にし易い媒体に載って浸透し、
さらにそれがコピーされ続けて、広まっているだけのようです。
淡水エビ情報(特にアクア雑誌系)は、種名や写真も滅茶苦茶だったりするレベルの人が、
情報発信側の内部から率先して混乱を広めているという
他に例を見ない面白いジャンルという事になります。
特に初心者の方は、ゼロからのスタートではなく、
マイナスからのスタートにさせられてしまいますから要注意です。

ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)は陸封された淡水繁殖種で、
生息各地で遺伝子の型が違っている事が確認されていますから、
飼育感想以下レベルの情報は無視して構わないものと思います。
ウソ情報で楽しみを奪われてしまう事ほど損なものはありませんから、注意したい所です。
(エビ飼いを取り巻く情報は上も下もイイカゲンなものがかなり多いです。
当サイトも含め、他人の話を鵜呑みにせず、自身で良〜く確認したほうが賢明です)


このゾエア達は孵化から大分日数が経っていて、
ようやく自分で横へも泳げるようになった程度ですが、
これでやっと感潮域で採集した一群の孵化したばかりのゾエアとほぼ同等の大きさです。
同種レベルでありながら、水系が違うだけで、
孵化するゾエアの大きさに変化があるのが面白いエビです。(分化が激しい)
写真では極めて小さな腹肢が存在するのが確認できそうですが、
それよりも将来歩脚となる胸脚側が圧倒的に大きく目立ちます。
下側の写真では櫂状に平たくなっている脚があるので、
やはり泳力はこちら側が担っているように思えます。

ヌマエビ・ヌカエビに関しては、’90年代の後半に遺伝子の距離から見た分類の総見直しが行われ、
私が知る限りではこちらにある状態に組み直されています。
ですから、ヌマエビ・ヌカエビの情報の中には、
今後変更されていくのに相当な時間を要すると思われる記述がたくさん存在します。
“ヌカエビは小卵型だ”といった「飼育感想以下レベルの情報」以外にも、
形態上の特徴からのみの分類が広く浸透してしまい、
厚みと高さを持った壁として残ってしまっています。
Web上でも、放置されてしまっているエビサイトが複数ありますから、
これらの古い情報とは、今後も付き合って行かなければなりません。
情報を発信し続ける訳ですから、新しい情報と対等あるいはそれ以上の影響力を持ち続けます。
これも特に初心者の方には影響が大きいと思います。
古い情報に当たる確率のほうが圧倒的に多いのは間違いありません。

「ヌマエビとヌカエビは亜種」という記述が多く見られますが、これはもう完全に別種です。
今後、亜種と成り得そうなのは、ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群)の中か、
あるいはヌマエビ(南部群)の中であって、どちらも各別種の中での話になります。

「ヌマエビには小卵型と大卵型が居る」という記述もありますが、これも変更を要す事に成ります。
ヌマエビ小卵型は、ヌマエビ南部群というかなり安定した一群で、
アクアリストには“ミゾレヌマエビ”として御馴染みの種類です。
ヌマエビ大卵型は、ヌマエビ南部群と同様に頭の後ろにも棘が存在した事から、
ヌカエビの中から無理やりヌマエビのほうへ引っ張り込まれた程度で、
色合いや体型などの印象を見たら、まず“ヌカエビ”なはずだと思います。
“額角偏重”とでも云うべき識別方式が招いた混乱で、
元々ヌマエビ属は2種類だったわけです。

上記とセットで記述されるヌマエビとヌカエビの見分け方である
「ヌマエビは額角上の棘が眼の付け根より後ろにまである。ヌカエビは眼の前までしかない」
といった記述も、混乱の元だった事に成り、参考程度に格下げです。

分布についても、「北海道を除く日本全国」とされるのは2種類の分布を足したもの。
関東・東海・東北とされていたヌカエビの生息分布も、「ヌマエビ北部−中部群」という括りでは
間違いという事に成り、“本州中部以北”という幅に広がります。
ヌマエビ小卵型は、黒潮の流れが当たる沿岸の河口から稚エビが遡上しますから、
黒潮の影響を受ける本州中部以南となります。
“ヌマエビ”を冠しながらも沼というイメージの場所にはまず棲まないエビです。
海から隔絶された沼に生息していたら、それはまず陸封種・ヌカエビのほうで、
生態からすれば、このヌカエビを中心とするヌマエビ北部−中部群(陸封・淡水繁殖)が“沼エビ”となり、
ヌマエビ南部群(両側回遊種・汽水繁殖)は“川ヌマエビ”とでもすべき生活史です。

2種類のおおよその分布イメージ。
ヌマエビ北部−中部群⇒ヌカエビの容姿のエビ。旧ヌカエビと旧ヌマエビ大卵型。
ヌマエビ南部群⇒“ミゾレヌマエビ”として知られる容姿のエビ。旧ヌマエビ小卵型。
(エビ界での“本州中部”という呼び方は、非常に太い幅を持った地域を指すようです⇒参照

呼び方から考えると、個人的には
“ヌカエビ”として長く親しまれてきたこの種名は、そのままヌカエビで問題なさそうに思えます。
ヌマエビ大卵型は、ヌカエビの地域変異(あるいは亜種)の一つとして
これも見たまま“ヌカエビ”の範疇と思います。
ヌマエビ小卵型に関しては、“ヌマエビ”という呼称のままでは、他のヌマエビ科の総称とややこしく、
混乱の元凶と成り続ける事が大きく予想されますから、
「ホンヌマエビ」とでも呼んで欲しい、と願いたいところです。
(「カワヌマエビ」では川と沼が重なってややこしいですし、カワリヌマエビ属とも紛らわしい)

全くの別種を、いつまでも「ヌマエビ南部群」と「ヌマエビ北部−中部群」という
同じ“ヌマエビ”を使って呼ぶというのも問題があると思います。(最新でどう呼ばれているのかは知りませんが)
これでは「ヌマエビという1種の、生息地による違い程度」と誤解される危険があるからです。
感覚としては、以下のように整理すると、種としての違いが鮮明になり、
誤解も生まず、スッキリすると思います。

ホンヌマエビ(ヌマエビ南部群。旧ヌマエビ小卵型)
生息分布:本州中部以南
繁殖形態:小卵型(繁殖には汽水が必要)
特徴:胸の横に後頭部から「ミ」の様に斜め下に流れる線がある。
備考:黄点・白点を多く持つため、観賞魚的には“
ミゾレヌマエビ”と呼ばれて流通している。

ヌカエビ(ヌマエビ北部−中部群。旧ヌマエビ大卵型を含む)
生息分布:本州中部以北
繁殖形態:中卵型(ゾエアで孵化するが淡水中で繁殖)
模様:特記するほどの特徴はなし。(拡大すると胸の横に「
手でベルをつまんだ」ような模様あり)
備考:陸封種なので、隔離された各地域で亜種に近い遺伝子的な分化がある。“
水平な離れ目”も特徴の一つ。

イメージとして頭の中に描くには、こんな感じで良いのではないかと思います。
要するに、商品名“ミゾレヌマエビ”で御馴染みのやや綺麗な容姿のエビと、
“ヌカエビ”で御馴染みの離れ目で地味な容姿のエビの2つに明確に分けられたということです。
(2種の中に、各々亜種レベルの個体群が存在するかも?といった雰囲気ですが、
見た目にまで「亜種!」と判断できる程、遺伝子の違いが容姿に明確な違いとして反映されているかは疑問)

 

 

参照リンク

◆なおとくんの自由研究
http://blogs.yahoo.co.jp/hiratamiyama/49541645.html
目が離れた稚ヌカがいっぱい!
かなりゾエア後期で生まれるタイプ。

◆かえるのNGN
http://ngn.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_46ec.html
ふわふわ〜なゾエアを観察されています。
ひとことで「ヌカエビ」と言っても、ゾエアの大きさは個体群によって大きく違いそう。

◆ヌカエビ集団間の比較
http://www.city.yokohama.jp/me/kankyou/mamoru/kenkyu/pub/pub0148/summary1.html
地理的に近くても、卵径や遺伝子情報に差が見られるようです。
スジエビ同様に陸封種ですから、あらゆる生息地に、それぞれの地域変異集団が居そうです。

◆額角の比較図
http://www.najomon.com/page_tsunan/tsunan_shizen/shizen_4/03.html
現在では、
ヌマエビ大卵型とヌカエビで一種⇒ヌマエビ北部-中部群
ヌマエビ小卵型で一種⇒ヌマエビ南部群
となっています。
ヌマエビ北部-中部群の中には、
頭の後ろまで棘のあるもの・ないものがいる事になります。

◆ヌマエビ属とヒメヌマエビ属の区別点
http://www.interq.or.jp/jazz/rhinoda/aqua/ebi5.html
脱ぎたての脱皮殻があれば、
死なせずに専門的な同定が可能なようです。(顕微鏡があればですが)

◆ヌカエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/nukaebi.html
ヌカエビは「ハゲ頭」。眼上棘が見えずともこれで容易。
ただ、現在ではヌマエビ大卵型もヌカエビと同種で、共に「ヌマエビ北部−中部群」
という暫定?の種名になっています。
頭の棘は個体差程度の違いである事も多いようで、種類の判別には使えません。

◆ヌマエビ【エビずかん】
http://homepage1.nifty.com/gebara/ebizukan/numa.html
ここに書いてある分布には悩まされましたが、
“本州中部以南”はヌマエビ南部群(旧ヌマエビ小卵型)の分布。
“北海道を除く”はヌマエビ属全体の分布(旧ヌカエビ+旧ヌマエビ大卵型+旧ヌマエビ小卵型)。
で良さそうです。
現在は北海道にも南部群が移入中とのこと。

◆北海道のヌマエビ南部群
http://www.geocities.jp/polo6nhs/AZ/EBI01.html
完全に定着しているもよう。
ここまで大きな写真でも、眼上棘の確認は困難。
ゾエアの写真の中に、尾扇化を果たした稚エビらしきものが見えます。
ヌマエビ北部-中部群も含まれているのかも。
(他の方からも、北海道にはヌカエビも居ますという情報を頂いたことがあります)

 

2007/12/20 

 


2007/12/22 更新 


※『ヌカエビ』に関しては、遺伝学的な距離によって、
以前の分類が大きく変更されているようです。
ヌカエビを含むヌマエビ属全体が見直され、
・ヌマエビ小卵型⇒ヌマエビ南部群
・ヌマエビ大卵型⇒ヌマエビ北部-中部群
・ヌカエビ⇒ヌマエビ北部-中部群
となり、南部群と北部-中部群は別種とされる方向です。
長く親しんだ名称なので、ヌカエビと呼んでいますが、
ヌカエビは正しくは「ヌマエビ北部-中部群」の一地域個体群となると思います。

参照⇒【ヌマエビ・ヌカエビの新事情


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