混ぜるな危険(?)〜エビと病原体
トリートメント・タンク(検疫水槽)
買って来たばかりのエビや種類の違うエビを本水槽に混ぜ入れる前に、
暫く飼って様子を見る「検疫」のための水槽です。
魚を飼っていた時(今もまだまだ飼ってますが)にも必須ではあったのでしょうが、
魚用だとそれなりの大きさになるのと、魚病薬があり比較的治し易い、魚自体の免疫力が高いなどで、
結局導入することはありませんでした。
しかし、エビは病気が入ると、まず治す事は不可能なので、トリートメント・タンクは、より重要に思います。
「白濁したエビがいた水槽から買った」「死んだエビがたくさん居る水槽から買った」などの場合は、
自分の水槽のエビにうつる可能性が高いですから、使った方が良いでしょう。
止水で飼育していたミナミヌマエビの調子が悪くなり、体がやや白濁したため、
普通に飼育している水槽に混ぜたところ、その水槽に居た個体達にも次々と白濁が広がった事があります。
健康に元気に暮らしている水槽から水槽への混入は、全く問題無い場合がほとんどですから、
バランス問題になりますが、
本水槽に居るエビが多いほど、病気持込みによる被害は大きい訳ですから、
そういう場合は惜しまずにトリートメント・タンクを設置したほうが賢明です。
ビーシュリンプの水槽にアジア産のロックシュリンプを投入した途端、数百匹が次々死亡したこともあります。
他に与えた変化は無かった事から、今のところ、この混泳が良くなかったのではと思っています。
ウイルスや病原菌は、宿主(持ち込んでくる側)には問題ない場合が多く、平気で生きていますが、
伝染される側は学級閉鎖から学校閉鎖になる如く壊滅します。
日本のクルマエビの養殖場に、中国の子エビを導入したところ、壊滅したと言う話を聞きました。
クルマエビでのウイルスの報告は良く研究されていますが、
観賞用のエビにも当然起こっていると思ってよいのではないでしょうか。
未知なる生き物同士が出会うということ
生き物は、その本体自体で存在するということはなく、
寄生虫・ウイルス・病原菌などを、体じゅうのあちこちにくっ付けた複合生物のような様相で生きています。
くっ付く生物は、各生息地によって違い、くっ付かれる本体側もその生息地のウイルスなどに対応したものが、
その場所で生き続けていることになります。
進化とは「免疫の獲得」と病原体の「新型」との戦いの歴史でもあるわけですね。
生物にオスメスがあり、個性があり、突然変異があるのも、この戦いに生き残る戦略として大きく
作用してきたわけです。
各地のエビの混泳は、各々の地域独特の寄生虫・ウイルス・病原菌「込み」のエビが
水槽中で混ざることになります。
基本的な体の構造や組成が同じで、自分たちに対する免疫を全く持たない相手は、
くっ付き側にとっては願っても無いお客さんとなってしまいます。
と言いますか、対抗する手段を持つものとの戦いに負けまいとする力のまま、
それを持たない種類の体の中でも増殖してしまうため、相手は簡単に壊滅するわけです。
ニホンザリガニがアメリカからの移入種であるウチダザリガニに駆逐されつつあるのも、
ウチダザリガニが持つカビの一種にニホンザリガニが免疫を持たないためという説があります。
ニホンザリガニの生息する池にウチダザリガニが入っただけで、
その池一つがニホンザリガニが一匹も居ない池になるという事が起きます。
この「ザリガニペスト」と呼ばれる現象で、ヨーロッパでもかなりの種類のザリガニが死滅したようです。
関連して、最近では、アメリカ大陸に居たマンモスの絶滅も、
ユーラシア大陸から人間が連れて来た犬の持つ「狂犬病」が感染したためという説がありました。
地球が温かく、海で隔離されていた大陸が、氷河期に入り北極海を氷が繋げたために、
人間が歩いて渡って来れるようになったことが、この絶滅の引き金になったようです。
さらに大航海時代には、南アメリカのインディオも、
ヨーロッパ人が持ち込んだ病気で多くの種族が滅んだこともありました。
何百万年出会ったことの無かった生き物同士の出会いは、
まったく免疫を持たない未知なる病原体との出会いでもあるわけです。
本体同士の競合というよりは、相手が持ち込む病原体によって滅ぶわけです。
放流の危険性
このような事から、外来種のエビが爆殖したからといって、
御気軽に近所の川に放してしまうことの危険性が予測されます。
もちろんこれは日本のエビ同士についても同じです。
通信販売で、ミナミヌマエビが生息地域から様々な場所に売られていきますが、
この繁殖力の極めて強いエビが、もっとも放流されやすい危険性をもっているでしょう。
売られていった先には、長い間、ミナミヌマエビを含まない生態系が存在している場合が多いでしょう。
また、自分の住んでいる地域にも最初から生息する種類だからといって放流するのも問題ありです。
他の地域、他の河川からの採集個体と混ぜて飼っていた場合には、地域間での雑種が生じ、
たとえ種類的には同種でも、放す場所の病原体や微生物との相性に変化が起きているからです。
ちょっと前の話ですが、「東京にメダカが生き残っていた」と大騒ぎされ、
DNAを調べたら、観賞用のメダカが放されたものであったという記事が有りました。
同種と云えど、各地域にはその地域の環境・病原体・天敵などの地域特性にあった個体群が
気の遠くなる時間を経て作られているわけです。
そこに他の地域からの個体群を混ぜる事によって、地域間雑種が生じ、
その地域の環境的な特性に対応する力を失なわせ、一気に全滅させる危険が生まれるのです。
メダカが絶滅危惧種に指定され、一時期、新聞などに大きく取り上げられ脚光を浴びましたが、
それに伴う安易な増殖・放流が行なわれる危険も大きく増えているのも事実ではないでしょうか。
バケツなどでも比較的簡単に殖やせる魚ですから、
「そんなに減っているなら、オイラがいっちょ殖やして放流してやろう」と思うのも人情でしょう。
しかし、安易な放流は、細々と生き残っている在来の個体群を、
遺伝子的に完全に根絶させる危険を持っているわけです(遺伝子汚染)。
増殖や放流は専門家の指導を受けつつ、連携プレーで公に行うべきで、ゲリラ的放流は慎むべきでしょう。
分類学的には同一種でも、「同じ」ではないのです。
では、生息地から捕って来たものが、殖え過ぎたから、
捕って来た元の生息地に戻すのは良いのかというと、これもあまり良い事だとは思えないのです。
そのエビだけではなく、他の種類のエビ、外国のエビなどと混ぜて飼っていた場合は、
病原体の交換が行なわれている可能性が大きいからです。
在来の野生のエビに、出会ったことの無い病原体を出会わせる橋渡しをすることになってしまいます。
エビ以外にも、各国の熱帯魚が入っている場合もあるでしょう。
忘れがちなのは底床掃除用のコリドラスや、苔取り用のオトシンクルス。
これらの熱帯魚とも交換が行なわれている可能性もあります。
一見、元気に見えるエビも、体力が弱り、死ぬ間際になると、体内の病原菌が一気に増殖する危険性があります。
さらには、飼育個体の弱体化という問題もあります。
元水が微生物のほとんど居ない水道水で、生物層が薄い水槽で生まれ育った「もやしっ子」たちが、
自然個体の住む自然環境に大量に放された場合、もやしっ子達の発病率はかなり高くなるでしょう。
すると、それまでは自然個体に発病させるほどの数ではなかった病原体の濃度が、
その地域で一気に増えることになり、自然個体の対抗できる限界を超えることになります。
こうなると、自然個体も巻き込まれて発病してしまう可能性が高まるわけです。
病原体は思いもよらない経路を辿るものです。
「捕る」ことによる減少よりも、「放す」ことによる減少が上回る場合もあると思います。
一度水槽で飼育したエビは、自然環境に出すことはしないほうがいいでしょう。
あわてず、ゆっくり混ぜる
たとえ、同じ家の同じ部屋であっても、微生物や病原体を含めた一種の「地域隔離」は起こります。
水槽一つずつが水系の遮断された小さな小さな「地域隔離」を起こしているわけです。
この場合、水槽ごとに生える藻やコケが全く違う場合がよくあるように、
水中に住む微生物の種類や量も一つ一つの水槽で違うでしょう。
エビが急変に弱いものの一つに、この微生物群の急変も含まれると思います。
長い間に少しずつ慣れていった個体群と、いきなりその環境に入れられる個体群では、
いきなり入れられた側は、水質に慣れなければならないのと同時に、
そこに住む微生物や病原菌にも慣れなければならず、たいへんな体力を使うわけです。
人間も引越ししたあと「水に慣れる」までは体調を崩しやすいのと同じです。
ですから、長い間、水が混ざった事の無かった水槽同士のエビを混泳させるには、
水合わせやトリートメントタンクが必要になる場合もあるかもしれません。
大量に居る水槽にどうしても混ぜたい場合は、別の水槽で、混ぜる側に混ぜられる側を数匹だけ混ぜてみて、
様子に変化が無い事を、自分で納得いくまで充分に確かめた上で混ぜた方が賢明です。
ショップで購入する入荷直後の個体。特に「ワイルド」と表記されていた個体は、
その現地で病原体をたっぷりくっ付けてくるわけで、いきなり混ぜるのは危険と思われます。
さらに入荷直後で体調を崩しやすく、その内在する病原体に対抗するだけの体力が無くなっている状態は、
発病して組織が崩壊し、大量に病原体を撒き散らす危険度は相当高いと思いますので注意が必要でしょう。
個人的には、出すだけで一切入れない「聖域」の保持は、系統や種の累代維持に重要だと思います。
混泳を楽しんだり、グレードを上げたり、血が濃くなるのを防ぐ為の水槽は、
新たに作ったほうが、余計な心配が要らず、気が楽です。
2003・03・10 岩
2003・06・02 追記、UP